日本の鳥切手の概要

 
日本の鳥切手は何枚くらい発行されているのだろう。(「何種類くらい」という意味、種類と書くと鳥の種類と混同するので切手の種類を表現したい場合はこの部屋では「枚」を使います。)切手に描かれた鳥たちにはどれくらいの種類がいるのだろう。このページではこれらの疑問にずばりお答えします。
 
とは言っても、私が勝手気ままに意見を述べさせていただくわけですが、具体的なデータとその出典を知りたい方は、次の資料を参照しながら読んでください。私の意見はこれらの資料をもとに組み立てられています。
  1. 日本の鳥切手の一覧表(1994年まで)
  2. 日本の鳥切手の発行年(1994年まで)
  3. 日本切手の鳥たち(1994年まで)
この家ではStanley Gibbons社発行"Collect Birds on Stamps, 4th Edition"(1996年6月)を「鳥本」と呼び、(財)日本郵趣協会発行「原色日本切手図鑑1992年版」を92年カタログと呼びます。
(1)日本最古の鳥切手について
日本で発行された一番古い鳥切手は、何と今(1999年)から124年も昔の1875年(明治8年)に三枚発行され、各一種、計三種類の鳥が描かれています。デザイン的なもの、家禽など「鳥本」には掲載されていない広義の鳥切手を含めたとしても、この3枚が日本で最初の鳥切手です。いや、もっと広く動物切手という観点から見ても、もっと前に発行された古い龍が描かれた切手(いわゆる竜文切手)を除くと、すなわち実在する動物が描かれた切手という観点からは、これら3枚は日本で最初の動物切手になります。
 
鳥本によると、鳥本が扱っている世界の鳥切手の中で一番古い鳥切手は西オーストラリア(Western Australia)で1854年に発行されたコブハクチョウの切手でなんと日本の切手は世界で二番目に古い鳥切手となっています。アメリカ合衆国では1869年にハクトウワシが出ている切手を発行していますが、鳥本の基準には合わないものと思われます。仮にアメリカのその切手を「鳥切手」と見なしても、日本の鳥切手は世界で3番目に古い発行となります。ちなみに日本の次は1876年に発行したコロンビアです。鳥本の基準によるアメリカの最初の鳥切手は1938年です。
 
さて、上の資料 Iを見て頂きたいのですが、日本第一号の切手に描かれた名誉ある3種類の鳥たちは、92年カタログではそれぞれ“かり”、“せきれい”、“たか”と書かれており、鳥本ではこれらをヒシクイ?、セグロセキレイ?、オオタカ?としています。
 
私は、一般に鳥の切手をはじめて見たときには、きれいだなとか珍しい鳥だなとか思う一方で、なぜこの鳥がこの国の切手に選ばれたのだろうと思うときがあります。また、シリーズとして発行された切手などで違う値段がついていたりすると、どうしてこの鳥がこんなに安く、あの鳥があんなに高い値段がついているのだろう、などと考えます。
 
日本で一番古い鳥切手に、何百といる日本の鳥の中から“かり”、“せきれい”、“たか”が選ばれたというのは、私にとってはごく自然に受け入れられます。この際、具体的な鳥の種類名はさておいて、“かり”や“せきれい”や“たか”というのは、日本に昔からいる非常になじみのある種類ですからね。
 
また、値段についても“かり”が12銭、“せきれい”が15銭、“たか”が45銭とつけられているのも十分に納得ができます。もし、“たか”が12銭で“かり”が45銭だったとしたらとても落ち着かなかったと思いますが・・・。やはり鷹には45銭(“せきれい”の三倍もする)の地位が与えられるに十分な威厳が備わっていますよね。
“かり”と“せきれい”はわずか3銭差。鳥そのもののからだの大きさは“かり”が圧倒的に勝っているけれども、これら二種の鳥は日本人の文化面においても、生活面においても共に非常に身近な存在であることはあきらかです。ではなぜこれら二種に3銭の差をつけたのか。いや、3銭の差をつけるのは郵政上の理由であって、本当は鳥そのものに優劣をつけたということではないのですが・・・。
私は“せきれい”が3銭高いほうの図案に選ばれたのは独断で次のような理由だと思います。
まず、セキレイの方がずっとスマートでスタイルがよく色がきれいなこと。(セグロセキレイは白と黒だけですがこの色合いがスマートさを引き立たせていますね。ハクセキレイもいいけどセグロセキレイの顔から胸/背にかけての黒、眉の白、体の白と相まって鞍馬天狗じゃなかった、パトカーみたいでかっこいい?です。キセキレイもきれい。かりも地味ではありますが、シックな美しさがあると思います。しかし、スタイルがちょっとデブっちいですからね。)
もし、この“せきれい”が鳥本で書かれているようにセグロセキレイだとすると、日本特産種ということになるけど、ま、当時の人達はそこまで考えていなかったんじゃないかと思います。断言してもいいです。
スマートさのほかに考えるとすると、何といっても、“せきれい”は昔から和歌などでうたわれ、古今伝授の三鳥の一つである「稲負鳥(いなおおせどり)」ではないかと言われているほど古くから日本の古典に登場していることが評価されたのではないかと思います。これは3銭の価値は十分にありますね。
 
★残念ながら私はこれらの日本最古の鳥切手を持っていません。どなたか下さるという方、(いるわけないけど)歓迎します。下さった方には、この部屋にお名前を掲示させていただき、世界中の人々からの賞賛の対象にさせていただきます。(だれも喜ばないだろうな。)
今、これらの本物の切手は、安くても一枚10万円位するのでしょう?(100分の一ならすぐ買うのだけれどね。そういう値段で売るというのはかえって怪しいよね。)★
(2)日本の鳥切手の発行傾向と特徴について
92年カタログによると、これら日本最古の鳥切手は「米国と結んだ郵便条約の実施にともない、外国郵便料金用として発行され、3種ともとりを描いている。」とかかれています。
この条約前後の事情が良くわかりませんので当時この条約がアメリカの得意とするペリー以来の“外圧”的なせまり方で締結されたのかどうかは知りませんが、アメリカが「鳥切手を出せ」と迫ることはあり得ないでしょうから、日本政府として自主的に鳥の図案を採用したことは確かでしょうし、これは鳥にこだわる私にとっては良いことだと思います。外国郵便→外国との往来→渡り鳥という連想で鳥の図案となった可能性はかなり高いと思いますが、実際に外国の切手を見ても航空郵便専用の切手には鳥の図案が多く見られます。
資料Iを見ていただければわかりますが、この「発想」は1950年の航空切手の発行(きじ)で確認され、後年の国際文通週間の切手へと脈々と受け継がれていくことになります。
しかし、日本の郵便事業が開始した直後から鳥切手はさい先の良いスタートを切りましたが、資料IIをごらんいただくと明らかなように、次の鳥切手が発行される1946年まで実に71年もかかっているのですね。鳥切手の収集家にとっては正に暗黒の70年間といえるかもしれません。そして、奇しくもこの二度目の発行にはまた、アメリカの陰が(占領軍として)ちらついています。
その後、新生民主主義国として日本は鳥切手を印刷し始め資料IIにありますように40年代の6枚から、50年代の12枚、70年代の21枚、80年代の22枚と着実に発行枚数が増加していき、90年代は集計の都合で94年までの5年間しか計算していないにも関わらず実に34枚と飛躍的な伸びを示しています。
この伸びは、人々の生活水準が向上するに従って伸びてきていると見ることもできましょうが、残念ながら公害や環境問題との関係も影響しているものと思います。
 
日本の鳥切手を概観して、その発行の傾向をつかもうと思ってみても、特別なものがあるようにはみえません。これは、鳥切手の発行が何か特定の基準など一貫した思想の下になされているのではないからであると思われます。たとえば資料IIIの鳥の種類を見てみても、日本固有の種類にこだわっているわけではなく、国鳥のキジにもアメリカが国鳥のハクトウワシにこだわっているほどまでこだわることはせず、どちらかというと1950年に航空切手で一挙に5枚出すことで国鳥をもてなす精力を使い尽くしてしまったかのようでさえあります。スズメやムクドリやヒヨドリなどごく身近な鳥を多く扱うこともなく、どちらかというととらえどころが無いのが特徴といえるかもしれません。
私の個人的な発想では、身近な鳥と非常に珍しい鳥のバラエティーがありすぎるような気もします。たとえば、1963年から64年にかけて発行された日本で最初の鳥シリーズと銘打たれた6枚の切手はキジバト、ウグイス、ホオジロという都会でも身近な鳥が扱われている一方、奄美大島と徳之島だけにしかいないルリカケス、主として本州中部の高山にしかいないライチョウ、兵庫県でわずかに繁殖していたが切手が発行された頃にはほとんど絶滅(トキと同じように人工飼育下でのみ繁殖、少数がまれに渡来する程度)というコウノトリという取り合わせです。そういう意味では1983年から84年に発行された特殊鳥類シリーズの鳥たちは、「特殊」と言われているだけあって非常に珍しい種類を集めているのでこちらの方はまだわかる(私はなぜそのような鳥が選ばれたのかは良くわかりませんが)ような気がします。
 
一方、感覚的には日本の鳥切手は芸術作品を扱ったものが非常に多く感じられます。日本の鳥切手は一部の外国で発行されているように写真を使ったものはなさそうですので、誰かが切手のために絵を描いており、切手そのものの絵柄を芸術作品と評することはもちろんできますが、私がここでいう意味はそうではなく既存の芸術作品を切手にしたもののことです。1990年までに発行された82枚のうち14枚が92年カタログによると誰々作「何々」というような名のある作品で、それら作品に種類が確認できるほど写実的な鳥が描かれているということです。鳥を題材とした切手の中でこのような芸術作品が扱われている例はそれほど多くなく、アメリカのナチュラリストで鳥類の画家としても有名なオーデュボンの生誕200年記念の切手に世界各国で同氏の絵画を乗せているのが数少ない例であると思われます。しかし、アジアでは日本を除くと、中国、台湾で芸術作品を切手にしているものが目立ちます。これは中国からの「花鳥画」という自然を題材とした絵画が、日本に影響を与えている以外の何物でもないように思われます。
芸術作品の中では1974年から81年まで8年連続鳥の描かれた絵画を使用した、国際文通週間の切手がその継続性の観点から特筆すべきものと考えます。しかし、81年の国際文通週間の切手を最後に92年カタログを見る限りはその後の芸術作品は出ていません。今度お金を貯めて92年よりも新しいカタログを買えるときがきたらその後に芸術作品を扱った鳥切手が出ているかどうかがわかるかもしれませんが、現状ではここまでしかわかりません。
 
80年代には22枚の切手が出ていますが資料IIをご覧いただくと明らかなようにそれは84年までの5年間に集中しています。後半には86年に1枚、87年に2枚、88年に1枚とわずか4枚しか出されませんでした。上述のように次第に発行枚数が伸びているのになぜか。
私には83年-84年の特殊鳥類切手の発行が原因のように思われて仕方がありません。この特殊鳥類は本当に珍しい鳥がほとんどですので、経験のあるバードウオッチャーでも見たことのある鳥はそれほど多くはないと思われます。一般に切手を見る普通の庶民にとっては、全く知らない鳥と思っても不思議ではありません。そこで切手発行担当のお役人の中に「鳥の絵に偏りすぎてるのとちゃうか」という人が出てきたのか、鳥切手の擁護者が退職したのかどうかわかりませんが、とにかくしばらく鳥を扱うのがはばかられるほどの衝撃を与えたのではないかと想像しています。実は鳥切手の将来にとってはこの後半の著しい減少がかえって力をためることになり、90年代前半の34枚という爆発的発行に結びついています。
 
私は現在、最近の普通切手で鳥や植物や昆虫を扱った切手が出ていることと、いわゆるふるさと切手で、そのふるさとにふさわしい鳥切手が出始めていることに注目しています。今後は極端に珍奇種に偏ることなく広く人々に親しまれている動植物がより多く採り上げられるのではないかと思い、今後の動向が楽しみです。
 
最後に、日本の鳥切手で扱われた外国の鳥についてふれておきますと、地球や南極の観測に絡めてペンギンが三回登場しています。アデリーペンギンが2回、コウテイペンギンが1回です。 このほかに動物園100年記念としてオオサマペンギンがライオンと一緒に登場し、同時にオオフラミンゴもゴリラと一緒に登場しています。この点から、外国種の鳥ではペンギン類が圧倒しているといえるでしょう。このほかには1975年の国際文通週間の切手で尾形光琳の「孔雀葵花図」に描かれたインドクジャクが採用されています。注目すべきは1971年に普通切手として発行されたコブハクチョウで、これは日本で確認された鳥には入りますが、八丈島で一度だけ確認されただけ(日本野鳥の会発行、高野伸二著「フィールドガイド日本の野鳥」)の珍しい白鳥です。どちらかというと外国種と言っても良いものと思いますが、これがなぜ普通切手に採用されたのでしょうか。
日本で普通に見られるハクチョウはオオハクチョウ、コハクチョウが代表的ですが、冬に限られた環境にいかなければ見られません。決して少ない種類ではなく、ハクチョウのくる地域では珍しくはないのですが、コブハクチョウは皇居とか、大きな公園とかで飼われているのを見たり、結婚式場の宣伝とかでもよく使われていますので、オオハクチョウやコハクチョウと比べるとより親しみを持って身近に観察されている鳥だからだと思われます。

(3)日本の切手に最も多く登場する鳥について
1994年までに発行された日本の鳥切手で登場している鳥は全部で71種類います。資料IIIをご覧下さい。登場回数で見るとタンチョウが14回登場で二位のキジ(6回登場)を大きく引き離してダントツの一位。三位は4回登場のオシドリで、四位はマガン、ヤマガラ、ホトトギス、キジバト、コウノトリ、ウミネコ、ヤマドリが3回登場のタイ記録です。次は2回登場で12種類がひしめき、後は49種類すべてが初登場のみとなっています。
 
Japan 1975 Manchurian Crane

1975年発行自然保護シリーズのうちタンチョウ

 

第二位のキジは、実は六回のうち五回は1950年に発行された航空切手の金額違いの五種類ですので、実質的にはタンチョウが圧倒し、その次は55年、74年、77年、92年と程良く分散しているオシドリの健闘が目に付くというところでしょうか。タンチョウは鶴の代表であり、古くから掛け軸など絵画にも登場し、優雅なスタイルとあいまって人々に愛されていることは間違いがなく、特に日本航空のように、日本の看板を背負って飛ぶものの代表として鶴のマークを使うほど国民にとって自然に受け入れられる日本の鳥なのかもしれませんね。鶴は千年亀は万年といわれるほど長寿の代表としてもあつかわれ、おめでたい鳥としても良く登場します。それだけに、日本の切手でこれだけの登場回数を誇るといっても全く違和感はないと思います。鶴はタンチョウの他にも、マナヅル(80年、93年の2回)、ナベヅル(92年の1回)が選ばれています。
 
タンチョウは北海道で繁殖しています。一時は絶滅が心配され現在でも決して楽観はできませんが、何とか保護策が成功しているといっても良いでしょう。その点ですでに絶滅したも同然で、世界的に見ても絶滅の危機に瀕しているトキとは明暗を分けたようです。もしかしたら、トキがより人間に近い環境に多くいたこと、タンチョウがより人里から離れたところ(しかも比較的人の手が入っていない北海道)で繁殖していることが運命を左右したのかもしれません。
 
先ほど掛け軸のことにふれましたが、タンチョウを描いた掛け軸で、松の木によく止まっているところが描かれているのを目にされたことはありませんか。また、タンチョウの飛んでいる姿で、尾が黒く描かれているのを見たことはありませんか。これはどちらも間違いです。鶴の仲間はまず、木にはとまりません。良く木にとまり高い木に巣を作るコウノトリと混同したものと思われます。また、タンチョウは地面に降りている姿を見ると、体が白く尾が黒いように見えます。しかしこの黒い色は主翼の(先の方は白いのですが)体に近い方の後ろの半分(風切りバネ)が黒く、翼をたたんでいるとまるで尾が黒いように見えているものなのです。しかし、あまり鳥を詳しく見ない人が、降りているときに尾の部分が黒く見えるので尾が黒いものと間違え、羽を広げても尾だけ黒く画いたものなのでしょう。ちなみにコウノトリは羽を広げると翼の前半分は白いのですが翼の両端から体まで後ろ半分が黒く、尾は白です。コウノトリもちょっと見たところでは白と黒の大きな鳥ということでタンチョウと間違いやすいこと、また、松という常緑樹がやはりいつまでも青々としているので、おめでたいものとして扱われ、松の木とタンチョウというおめでたいものが重なるともっとおめでたくなりますから、ありがたやありがたやとこれにあやかりたく、松とタンチョウを結びつけたのかもしれません。
幸いなことに、日本のタンチョウが描かれた切手では、このような間違いはないものと思います。
 

 
Japan 1993 Manchurian Crane

1993年発行タンチョウ二連切手