アメリカでの探鳥の注意点
 
 
アメリカ東北部で鳥をみる時、特に次の点に気をつけて下さい。
1. ライム病感染源のチック(Tick=ダニ)
ライム病は最近、日本でも新聞などで採り上げられたことがありますのでご存じかもしれませんが、米国東北部に居住していても、あまり気にかけていない人がいます。しかし、チックは非常に多く、チックに喰われるとライム病になる可能性があるので要注意です。現在では米国の少なくとも47州でライム病が報告され、外国でも数多くの病例がでているということです。
コネチカット州のライムという所で発見されたからライム病という名前が付けられたそうですが、これはチックが媒介するバクテリアから感染する病気です。一般に"Deer Tick"(鹿チック)といわれている種類で、厳密にはその幼虫と成虫のメスだけが媒介するといわれています。(よく似ている"Dog Tick"(犬チック)も非常に多く目にしますが、これは、ロッキー山脈の周辺で別の病気を媒介するそうです。その病気はアメリカ東北部では現在のところ心配ないそうです。しかし、西海岸からロッキーにかけて自然環境に入る場合にはこれらのチックにも注意をする必要があります。)
バクテリアを媒介することができるチックの大きさは、幼虫では1mm未満、大きなメスの成虫でもせいぜい5mm程度ですからよほど注意していても見つけることは用意ではありません。チックは春から夏にかけて活発に動きますが、カリフォルニアなど温暖な地方では一年中活発ですので、人につく可能性があります。また、ニューヨークでも比較的暖かい気候の年には晩秋や初春でも油断ができません。
 
ほとんどの人は、チックに喰いつかれても気がつきませんが、もし、何のじゃまもなければチックは2〜4日喰いついたままでいます、吸った血で大きく膨らみ、自然に離れて落ちます。もし、このチックがライム病のバクテリアを持っていたとしたらこのチックが血をすっている間に人にバクテリアを移します。そしてバクテリアは人の体内で増殖をします。しかし、たとえそのチックがバクテリアを持っていても必ずライム病が発病するとは限らないようです。
もし、チックを見つけたらできるだけ早く取り除く必要があります。早ければ早いだけ病気に感染する確率が低くなります。喰いついている場合は、頭を皮膚の中に入れからだの大部分は外にでています。できるだけ頭に近いところをしっかりとピンセットなどで押さえ、ゆっくりと根気よく引っ張って取り出します。体を強く押したりすると、チックが死に、その際にチックの体内のバクテリアなどがすべて人間の体内に送り込まれてしまうかもしれません。また、強く引っ張りすぎると頭の部分がちぎれて皮膚の中に残されてしまうかもしれません。簡単にはとれませんが、焦らずじっくりと完全に取り出しましょう。(私は、飼い犬についたチックですが、チックを取り除く経験を豊富に持っています。決して簡単ではありませんがじっくりやれば必ずとれます。)もし、人がチックに喰われた場合には安全のためにチックを検査してもらい、ライム病のバクテリアを持っていたかどうかを確認しておいた方がよいでしょう。チックはそのまま(生きていても死んでいても)持っていて下さい。そのやり方については後述します。もし喰いつかれていたのでなければ、トイレに流すなど抹殺してください。(手でつぶしてもなかなか死にません。)
 
典型的な初期の症状はチックにかまれたところを中心としてゆっくりと広がっていく、皮膚の赤いかぶれです。赤いかぶれ状の皮膚の異常は痛くもかゆくもなく、かまれてから一週間から一ヶ月の間にでることが多いようでその後数日間にわたってゆっくりと広がっていきます。次の段階には、その初期のかぶれとは全く異なる小さな赤い発疹が見られるようです。これらの発疹は、かまれたときの発疹(かぶれ)を含み個人によってでるときもあればでないときもあるようです。
発疹がでるでないに関わらず、初期のライム病の症状としては、だるく、頭痛や、肩のこり、関節部の痛み、筋肉のこりや痛み、軽い熱、のどの腫れ、目の充血などを伴う風邪のような症状がみられるようです。
これらの初期の段階で適切な治療がなされないと、関節や、心臓、神経中枢まで感染していきます。関節の場合は、膨らんで痛み、数日間痛みが取れないことがあります。一つの関節で痛みが去ると今度は他の関節が痛むなど繰り返します。心臓の場合は、発疹がでてから1〜3週間後にめまいや、体のだるさ、不規則な鼓動などがでます。神経がやられると、目が腫れたり、顔の筋肉が弱まり、まぶたや口の端が垂れ下がったりします。
 
ライム病は、初期であればほぼ完全に治癒するといわれています。発見が遅れても、直るといわれていますが非常に長期間抗生物質を投与しなければならず、ライム病の専門家の多い米国東北部に住んでいる人でなければ、現実問題として治療を受けるにしてもとても容易ではないと考えるべきでしょう。
 
ですから、最も重要なのはチックにかまれないように予防することです。
まず、一般にいわれていることは、チックの生息地(草、茂み、林)に近寄るなということです。しかし、バードウオッチャーの場合はこれは鳥を見に行くなと言うに等しく、不可能です。ニューヨーク州やコネチカット州では普通の民家の庭で子供たちが遊んだり、花壇の手入れをしたりするだけでもチックがとりつくことがあるようですので、もっと自然の状態が残されている公園や林に出かける場合ならなおさら油断はなりません。
ですから、まずズボンの裾は靴下の中に入れて、裾から入り込むのを防ぎます。手もできれば軍手などをして、長袖で手首は締め付けられるような服にすると良いでしょう。首にはスカーフやタオルのようなものを巻き、どこからもチックが入り込み、肌に食いつくことがないようにする工夫が必要です。この場合、チックを防ぐような薬を服につけるなどをしておくとより安全でしょう。
(この薬は、普通の虫除けスプレーなどと一緒に、ドラッグストアーなどでも売っていますが、チックを防ぐための強い薬です。一般には皮膚につけるのは良くないので、衣類につけるようにしますが、弱いものは2〜3時間しか保ちませんので、バードウオッチングには必ずしも十分とはいえません。買うときにはよく説明を読み、チックに効くかどうか、効き目はどのくらい持続するかを調べましょう。弱い薬しかない場合にはそれを持ち歩き1〜2時間ごとにつけなおすなど考えた方がよいでしょう。American Birding Associationでは、本格的にチックから守るために、洗濯した後で服を漬け込むような薬を売っています。)
もし、チックが服などに付いているのに気がついたら払えばよいのですが、気がつかないうちに入り込むことがないようにするべきです。また、服についた時にすぐ気がつくようできるだけ薄い色の服にしたり、車に乗るときや、家(ホテル)に入るときに人がいればよく見てもらい、または自分でしっかりと確かめるようにするとよいでしょう。気がつかないうちに家の中にチックが入って繁殖するようなことになったら大変です。
チックに食いつかれても、できるだけ短時間で除去できればライム病に感染する確率も低くなるようですので、万一チックに食いつかれた場合には、上述のようにチックをピンセットでひねりとるなどの方法で(できるだけ殺さないように)体からはなし、喰われたところを良く覚えておき、しばらく(数ヶ月の間)皮膚が赤くなることがないかとか、風邪のような症状がでないかとか注意深く経過を見守り、少しでもおかしいときにはライム病の感染の可能性を示して医者に相談すると良いでしょう。
 
もし、体に食いついていたチックを(生死に関わらず)確保できたのでしたら、そのチックを調べてもらい、ライム病のバクテリアを持っているかどうかを判定してもらうことが必要でしょう。コネチカット州の病院などで聞くかまたは、政府のDepartment of Healthに問い合わせれば、どのようにしたらよいかを教えてくれます。ニューヨーク州ライ市の付近では、コネチカット州グリニッジ町の町役場(Town Hall of Greenwich )の地下にDepartment of Healthの研究所があり、すぐに検査の手配をしてくれます。
町役場の住所は次の通りです。
Greenwich Town Hall
101 Fieldpoint Road
Greenwich, CT
 
電話は1-203-622-7700で、月曜から金曜まで朝8時半から午後3時まで(昼12時から1時までは休み)受け付けています。
地下のDepartment of Healthの Laboratoryのドアを開け、チックの検査をしてほしいというと、申込書をくれるので、それにどこで誰が体のどの部分にくいつかれたかとか、連絡先などを書き込み、チックを渡します。
生きたチックは検査に約一週間かかり、費用は99/5月現在$25.-かかります。死んだチックは3〜4週間かかり、$5.-必要です。チックは生きている場合は草の葉を一枚入れ、きっちり閉められるビニール袋に入れて持参します。
 

ライム病の病気と予防などについてもっと詳しく知りたい方は、是非次のサイトに行ってみて下さい。詳細なチックの写真もあります。
 
a) SAAG によるチックとLyme Disease情報
b) Pfizer Central ResearchによるLyme Disease情報
 

 
下の写真は、自然保護区などの入り口で掲示されている注意書きです。米国東北部のほとんどの自然観察に適した地域で同様の注意書きがあります。
 
General Notice
入り口でよく見かける注意書き


Warning for Ticks
チックに関する部分の拡大写真