慶応大学野鳥の会機関誌「エトピリカ」創刊号
(1969年9月発行)掲載分
 
鳥だより−初秋の多摩川を歩いて−

荒川洋一

 去る9月16日に河野さんと多摩川河畔を探鳥しました。晴れていてとても蒸し暑い日でしたが鳥達は秋の訪れを感じているのか、スズメ・カワラヒワなどは各所に大小の群を作っていました。ヒバリは楽しかった夏の思い出を惜しんでいるかのようにさえずりを一節か二節口ずさんでみて、例の地鳴きをあたりにふりまいて飛び回っていました。セッカは黄色味の強い体を実に軽そうに操って草むらから草むらへと飛び移っていましたが、夏まで聞かれた独特のヒッヒッヒッ・・・は聞くことができませんでした。時おり旅支度を整えたツバメの親子が水面をかするようにして通り過ぎていきます。彼らも名残惜しいのでしょう。
 
 ここには夏の去り行くのを惜しんでいる鳥ばかりいるのではありません。秋の訪れを腹の底から歓迎しているあのキチキチキチキチ・・・・が聞こえてきました。モズです。川の中に浮かんでいる島に黒いものが動いているのが見えます。セグロセキレイでした。河野さんのお話ですと、セグロがこんなに早く多摩川で見られるのは珍しいそうです。川面を見渡すと小さいのがポツンと浮かんでいます。時々見えなくなっては、また水面に顔を出す。カイツブリです。彼らは秋になるとかなりの数が集まって群で生活すると聞いていましたが、ここにいるのはたった一羽。奥さんにも見放されたのでしょうか。かわいそうに。いや、奥さんがいましたよ−−−でも、まさか。となりに大きな体の鳥が寄ってきました。カイツブリの2.5倍はあるような黒っぽい鴨のような鳥です。プロミナーがあったらなあと思いました。プロミナーがあればカイツブリの遊んでいる向こうの州にいるシギも確認できたのに。二種類のシギというところまではわかるのにそれから先のこまかいところがわからないのですから。
水鳥に夢中になっていたら、どこからともなくきれいな、いい声が聞こえてきました。ふり返って見ると、小さな鳥が草むらから飛び出したりまた草むらに入ったりしています。双眼鏡で見ると頭から腹部・腰が赤く、翼は灰褐色をしていました。雑草の実をついばんでいるのもいました。どこかで見たことがあるなあ。そういえば小鳥屋の店先でよく見るベニスズメじゃないか。そうなのです。あのベニスズメでした。オスもメスも店先にいるのや、家庭で飼っているのに比べると、とても鮮やかできれいです。近頃、新聞や鳥の雑誌で飼い鳥の野生化した例をいくつも見ていますが、多摩川にこんなにベニスズメがいるとは思いませんでした。帰りに注意してみたら、あちこちに十羽前後の群で飛び回っていましたので、数十羽いるのではないでしょうか。無事にこの冬を越して来春は素晴らしいお嫁さんを見つけ、かわいい子供達をたくさん産んでもらいたいなと思いました。でも日本の冬は寒いから凍えないように気をつけるんだよ。多摩川を後に心の中でそう言わずにはいられませんでした。
 
場所:東横線、目蒲線で多摩川園前下車。徒歩。
   または東急バス二子玉川園行きで巨人軍グランド、玉川温室村、玉川ゴルフコース前のどれかで下車。多摩川園前からゴルフコースまで歩くと約三十分。バスだと約五分。
丸子橋からゴルフ場までの神奈川側とゴルフ場から第三京浜の橋の少し上流まで東京側が鳥を見るのに適している。日曜日に天気がよいと子供連れやアベックであふれるので、行かない方が無難。
 
*ゴルフコースのバス停からゴルフ場までゴルフ場専用の浮き橋がかかっているが、立て札を無視して野鳥の会専用の橋として利用するのが便利。こまかいことは河野さんにおたずね下さい。
 
 
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言葉の定義にはいろいろあるものです。手近にある書物で調べてみました。

シャンペン: 見るものは二つに見え、考えることは一つだけにする飲み物
能率を上げる:君の嫌いな仕事を他のものにやらせる呼吸
魚:     大多数の釣り師が休暇をとる頃に自分も休暇を取る動物
不眠症:   しばしば赤ん坊から両親にうつされる伝染病の一種
心理学:   君が既に知っていることを君の理解しない言葉で教える科学
オペラ:   一人の男が後ろから切られて、血を流す代わりに歌い出す劇の一種
陳謝:    時機を逸した丁寧さ加減
系図屋:   君の金が許す程度でずっと昔まで君の系図を探し出してくれる人
習慣:    手足の自由をも奪うほどのしきたり
テレビジョン:眼の痛くなるラジオ