毎日新聞1971年12月15日付け投書

大学校内での密猟の存在を訴えた投書が採用されました。現在までのところ人生最初で最後の新聞投書です。


(投書の内容紹介)

大学の構内にも密猟の被害
学生 荒川洋一22

 
 今は狩猟のシーズンである。毎年この時期になると、われわれ慶応義塾大学野鳥の会会員は、教養課程のある日吉の大学構内での密猟に悩まされる。
 違法のカスミ綱やトリモチを使って、保護鳥のアオジ、ツグミ、ウグイス、メジロ、ホオジロなどが密漁されている。昨年の晩秋から今年の春にかけて、われわれ会員のパトロールもむなしく、校内に冬を越しに来ていたウグイスがほとんど全部捕えられてしまった。ことしも三田祭期間中に、会員がカスミ網や、おとりとテープレコーダーを使ったトリモチでの密猟の現場をみつけ、大学の警備員に通報している。
 日吉周辺は東京都内、横浜市内には少なくなった林などがまだ見られる。そこに鳥たちが、いこいの場を求めて、遠くはシベリアからもやってくる。だから冬になると、このあたりの鳥の種類が急増する。そして、その鳥たちを待っているものは、暖かい思いやりのある心ではなく、“鳥盗人”の魔手なのである。
 日本を鳥と人聞にとって住みやすい国にするためには、日本人の大部分がまず自分の周辺から、こうした密猟をなくしていき、真の意味で自然を愛し保護していくようにせねばならないだろう。
 ところが先日、われわれ会員が、山階鳥類研究所標識室でやっている渡り鳥ハクセキレイの標識調査のお手伝いをしていたとき、パトロールカーから降りた巡査に「その烏をつかまえて、どうやって食べるんだ」と言われてあきれてしまった。わが国の鳥獣保護、自然保護運動の前途は、まだまだ暗いと思わざるをえなかった。
 (横浜市南区)