(昭和47年12月執筆)アメリカの自然保護、
第三章 アメリカの自然保護の独自性
第一節 アメリカの自然保護の独自性を形成する諸要因
四、アメリカ民主政治の特質
B.ピューリタニズム(モラリズム)


 

 
B.ピューリタニズム(モラリズム)

  ピューリタニズムの本質には回心の体験がある。回心することは常に新たに生まれ変わることであって、そのことによって救いを確信して罪に戦いを挑んで身を捧げていくということである。であるから、ピューリタニズムはアメリカのモラリズムの源と考えることができる。そして彼らのモラリズムは、過去の禁酒法の制定や第一次世界大戦への参戦などで見られるとおり、一旦道徳的に正しいと思いこむと急激にのぼせ上がり、そのモラリスティックな道を駆け抜けようとする特徴がある。
 これをアメリカのたどってきた自然保護の歴史にあてはめてみよう。過去において、ピューリタニズムは明らかにピューリタニズムとアングロサクソンの繁栄の使命感をもちフロンティアの開拓(西漸のエネルギー)を力強く支えていた。言い換えるなら、結果的には歴史的に見ても世界にも稀な自然破壊をもたらすことになった西漸の思想的バックボーンになっていたのである。そして、アメリカの繁栄をもたらすはずの資本主義の発展、工業化に反対の立場でいることはなかった。ピューリタニズムの擁護の上に立ってアメリカンシステムの工業化が促進され、大量の消費は美徳であり、より良い生活の手本であるとみなされたと言うこともできる。しかしながら「生態学とテクノロジーアセスメントの時代」にはいると、アメリカの環境保全の政治が汚染に対して突如として積極的に強力な政策を推し進め、国民が焦眉の問題として環境問題に新たな意義を見いだしていることは、とりもなおさずそれまでの「罪悪的な行いを悔い改めて神の正しい信仰へと心を向けていく」ピューリタニズムの発露であり、アメリカのモラリズムが一旦白熱すると、他の国なら恐らく大変困難な場合でも一瞬にして価値観の大転換を行うことができるということを体現しているものであろう。
 1971年4月18日、その日からの地球週間の始まりに際し、ニューヨーク市の半官半民の公害防止運動団体である「環境問題審議会」(会長リンゼイ同市市長)の発行したパンフレットで、「あり余る物資に支えられたアメリカの生活様式は環境の犠牲の上に成り立ってきた。その習慣を捨てて新しい生活様式を打ち立てよう」と浪費をいましめ、節約を奨励していることがその具体的例ともなろう。
 勿論この70年は世界的なエポックであり、アメリカでなくともほとんどの国において環境保全への動きが見られてはいるが、私は、アメリカの態度がこのようにあまりに急激に一つの方向にまとまるということは、アメリカのピューリタニズム(モラリズム)の影響であって、日本も、イギリスも、ソヴィエトも確かに70年を境に自然保護を積極的にとりあげてはいるが、アメリカほど激しい---国を挙げての---転換ぶりは見られないと思う。特に「自然保護のあけぼの」の時代に破壊から保全へと転換することができたのは、他国に見られないアメリカ独自のものであり、アメリカのピューリタニズムの影響を抜いて考えるわけにはいかない。(参照本章第一節五)
 
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