(昭和47年12月執筆) アメリカの自然保護、
第三章 アメリカの自然保護の独自性
第一節 アメリカの自然保護の独自性を形成する諸要因
四、アメリカ民主政治の特質
A.タウンミーティング


 

 
四、アメリカ民主政治の特質
A.タウンミーティング

  アメリカにはタウンミーティングという世界でも稀な直接民主制を、具体的に行った伝統があり、それが今日のアメリカ市民の政治の関心の強さに反映されている。
 アメリカに渡ってきたばかりの人々は、全員が会合してその地区(タウン)に関する問題を討議し、決定し、実行してきた。積極的に政治に参加し、政治を運営する伝統があるので、アメリカの市民は政治参加が活発であり、自発性に富んでいる。今日のアメリカにおいて、様々な形で行われている自発的結社の活動はこうしたタウンミーティングの精神を受け継いでいると言っても良い。そしてそうした団体の活動は、アメリカ市民の政治的活動の大きな部分を占めているのである。
 そうした自発的結社が果たす政治的機能は例えば婦人有権者同盟のように、選挙に対して候補者についての情報を与えたり、啓蒙運動を行ったりして本来的に政治的色彩をもっているという団体だけに限られているのではなく、元来は政治色をもたない団体が今日政治的に活躍をしている例もある。
 例えばアメリカの公害運動において今日大きな役割を果たしている、12万人ものメンバーをもつという「シエラ・クラブ」(博物学者で探検家のジョン・ミュアが中心となり、1892年にサンフランシスコに創立した純粋強力な自然保護民間団体)や、第二章第二節に述べた「オーデュボン協会」のような自然保護団体は元々政治的な色彩をおびた団体ではなかった。具体的には「シエラ・クラブ」はヨセミテの大自然景観を保護するため荒野を保存する運動の組織として発足したものであり、「オーデュボン協会」はフロリダのダイサギを狩猟者の手から護るために組織されたものである。しかし、公害が激化するとともにこれらの結社は公害反対運動の中心的存在になったものである。
 自然保護団体が長年にわたって自然保護のための運動を続けてきたという事実がなければ、アメリカの公害反対運動が短期間のうちに国の内外の注目を集めるほどの盛り上がりを示すことはできなかったであろう。そして、この長期にわたる自発的結社への参加というものは、伝統的タウンミーティングの精神の存在によって説明されるのである。即ち、アメリカの参加民主主義を反映しているのである。
 
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