(昭和47年12月執筆) アメリカの自然保護、
第一章 欧米的自然観と日本的自然観、第一節 欧米と日本


 
第一章 欧米的自然観と日本的自然観

  一口に自然保護と言っても、日本人と欧米人とでは自然に対する考え方が基本的に相違しているから、自然を保護するという考え方もおのずからとらえ方が違うはずである。欧米人とアジア人、特に中国人・日本人の自然観の違いは良く論ぜられていることだが、アメリカの自然保護を考えるに先立って、ヨーロッパ的考え方と日本的考え方の相違が根本的に何に原因しているのか、どうしてそうなってきたのかを考える必要があると思う。
 この章ではヨーロッパ人と日本人の自然に対する考え方の比較からはじめ、ヨーロッパ人からの“分流”であるアメリカ人の考え方はどうなのかを検討して、次章以降に述べていくアメリカ固有と見られる諸特徴と自然保護を考える礎としたい。
 
第一節 欧米と日本
  自然現象と生活との結びつきは欧米人と日本人との間に大きな相違がみられる。その相違は、ヨーロッパとアジアの人文地理・歴史的経過、経済的な基盤、宗教的背景および風土的な環境条件などが複雑にからみ合って今日のそれぞれをつくり出していると言える。
 
一、風土的背景
  ヨーロッパ大陸では自然風土は穏やかで一般に夏期は乾燥し、冬季には湿度が高い気象条件を持っている。日常生活における生活環境としても快適なものである。このような気候風土のために、四季の変化はあっても日本の場合に比べて差が少なく、温順で平面的な静かな自然と言える。ヨーロッパで早くから人類が自然を自分たちの生活にどのような形で利用しうるかという思想が生まれ、自然の利用法すなわち自然科学が発達してきたのはそのためと言われている。いわば、自然を客観的に捉え解析し、自分たちの生活に利用していく力を生み出したと考えられる。これに反し、日本の場合には、冬季は乾燥し、夏期は高温多湿の気候条件から四季の断層は強く明らかで、人間の精神生活に深く影響している。「さび」とか「わび」ということが、日本人特有の感情として生じているのはこんなところに原因していると農学博士の池田真次郎は言っている。
 こうしたわけで、日本人は四季の微妙な環境変異や自然の苛烈な力も、長い歴史の間に思い知らされている。毎年定期的に襲来する台風は経常的に洪水、山崩れなどを発生し、人間の生活を脅かしているのみならず、生命すら奪っている。すなわち、自然は美しく恵み豊かである反面、烈しい試練をも与えるものだという認識を日本人は幾世代もの間に身にしみて教えられている。従って人間は自然に対し、欧米流に対等の立場に立って自分たちの生活に都合の良いように利用するという思想の発生はなく、自然の烈しい面については逆らわず耐え忍んで生命を保ち得ようとする一種のあきらめの精神が一方には生じている。
 
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