この文章は、日本野鳥の会東京支部が発行する支部報「ユリカモメ」2000年6月号に藤波さんが寄稿されたものですが、藤波さんの許可を得て転載させていただくものです。

 
一世界の野鳥一
 
「ニューヨーク鳥便り」E
"鳥見雑感"

藤波理一郎(ニューヨーク在住)

 
その1 ''The Christmas Bird Count''
 
 米国の鳥見の大きな行事の一つに「クリスマス・バード・カウント」がある。これは12月のクリスマス近辺の日に、全米各地で鳥の種類や数を一斉に勘定して記録する行事である。ここで記録されるデーターは、鳥類学上、貴重な資料となっている。この催し物の歴史は大変古く、今年が丁度100年目にあたる。この行事そもそもの起源は、19世紀頃盛んであった"Christmas Shoot"に始まると言われている。その頃ハンター達はクリスマス・ホリデーを祝って山野へ出掛け、手当たりしだい無差別に、獲物袋が一杯になるまで鳥や獣を撃ち殺していた。これはホリデーを祝うにはあまりにも野蛮で酷過ぎる・・と鳥類学者Frank Chapmanが抗議、これに代わるものとして、如何に多くの鳥をその日一日で見られるかを競う祝い方に変更する事を彼は提唱した。そして、その第一回目が1900年のクリスマスにニューヨークのセントラルパークで行われたのである。その後1950年オーデュボン協会(米国環境保護団体)がバードカウントの方法(例えば一人15マイル四方の範囲で見られる鳥等)やその他をルール化したユニフォームを作り、記録される全てのデーターが精査されてオーデユボン協会へ集められるシステムも構築された。このようなルールが一般化されると、バードカウントをするグループの数は飛躍的に増え、今や1700以上の団体、50000人を超す人々が参加する一大イベントとなってしまった。これまでの大記録を見てみると、鳥の数ではルイジアナでの1億8百68万7千7百羽であり、種類数の記録としてはテキサスで見られた234種類である。
 ところで、最近コンピューターメール上で、このクリスマス・バード・カウントという名称が気にくわない・・と真剣に議論し合っているのを目にした。それは回数徒の人々、ユダヤ教の人々、仏教徒の人々は"クリスマス"とは何ら関係がないので、呼び名を変えてほしいという理由である。無宗教徒の私には実にばかばかしいディスカッションと思われたが、やはり、人種の坩堝と言われるニューヨークならではの話か・・と大変驚かされた。
 
その2 "バーダーの人気急上昇"
 
 最近の米国レクレーション・環境調査によると、16歳以上の米国人の94.5%は戸外活動を行っており、しかも1990年代後半からは、バーディングがハイキング、フィッシング、スキー、キャンピング等と並んで五大人気アウトドアースポーツとなっている。1980年代前半のバーダー人口は2120万人程であったのが、90年代後半となると6300万人以上となり、総人口の28.6%以上にもなって倍近くの増え方である。このようにバードウォッチングをレクレーションとして楽しんでいる人が多い為、鳥関連のグッズを売る店や雑誌が大変多いし、バーディングフェスティバルやクリスマス・バード・カウント等の行事に参加する人も非常に多い。しかも、バードウオッチャーが年間に消費するお金は15億ドル(1575億円)以上ともいわれ経済効果も大変大きいので、全米各州・各地の商工会議所や観光局が何とかバーダーを地元に呼び込もうと必死になるのも無理はない。色々な所で"Birding Festival"が盛んに行われるのはその為で、1993年には12件程であったのが、99年には140件も開催されている。この祭りを開く事で地元バーダーと全国のバーダーとの交流も盛んになり、宿やレストラン、土産物屋等地元経済が潤うだけでなく、地元の野生生物保護区、鳥類生息保護区等の環境整備に対する基金集めも容易となるらしく、並々この手の「祭り」が盛んになって来ている。今やバードウォッチングが地方都市の景気を潤す大きな要素の一つとは、羨ましい話である。 (終わり)