この文章は、日本野鳥の会東京支部が発行する支部報「ユリカモメ」1999年12月号に藤波さんが寄稿されたものですが、藤波さんの許可を得て転載させていただくものです。

 
一世界の野鳥一
 
「ニューヨーク鳥便り」C
 "ジョーンズ・ビーチの冬鳥達"

藤波理一郎(ニューヨーク在住)

 
 ケネディー国際空港の北隣に、夏は海水浴客で賑わう広い海浜がある。ここは冬ともなると、人がほとんど居ない静かな本来の海辺に戻り、北カナダやアラスカから下りて来る冬鳥達の避寒地となり、バーダーにとっての冬の重要なスポットである。ホンケワタガモ、シノリガモ、コオリガモ、ホオジロガモ、ウミアイサ、アビ、ハシグロアビ、ミミカイツブリ等が主役である。
 なかでも写真のスーパーモデルとして人気があるのがシノリガモとコオリガモであろう。荒波が砕ける磯の岩場では、シノリガモの小群が、斜めから射す弱い陽射しを浴びてのんびりと羽繕いをしているのが見られる。英名“Harlequin Duck ”、遠くで見ると黒ガモのようであるが、近くで見るとまさにその名のごとく、斑模様の仮面をつけた道化役のようで大変ユーモラスである。
 北風で波柱が立つ海面を、コオリガモが長い尾を真っ直ぐにピーンとさせ、メスを伴って仲良く泳いでいる姿は写欲をそそる。黒を基調とする夏羽より、白を主としたボディーにピンクの嘴の冬羽の方が非常に可愛い。冬も終る3月頃ともなると彼らは渡りの準備で50羽から100羽単位のグループで集まりだし、ヨーデルのような“アオーアオー、アオー“という3調子の大きな声を出して鳴き合う。この歌声は、北国の待ちに待った春の訪れを感じる、心地良い自然のセレナーデである。
 ジョーンズ・ビーチにやって来る冬の使者の中でも一番の人気者は“シロフクロウ”であろう。毎年はやって来ないが、2年に一度ぐらいの割合で下りて来る。特に例年より寒い気候で、しかも彼らが主食とするレミングという鼠の数が減る年には数多く下りて来る。多い時は8羽から10羽ぐらい集まるので壮観である。  昼間でも比較的活発に飛び回るが、砂浜や砂丘にじっと座って居ると保護色でほとんど分からない。また、こちらが気が付かないでいると、手が届く程近くを通り過ぎても知らん顔をしているが、立ち止まって振り替えると、すぐ音もなくフワーと飛び立ってしまう。まん丸い頭で、金色の目を細く開けてジーとこちらを見ている姿は実に愛敬がある。昨年は暖冬で見られなかったが、今年もあの愛らしい姿を再びフイルムに収めるのを、今から楽しみにしている。
 今年の4月号から私のフィールドの一部を紹介しながら、米国の鳥見の話しをして来たが、ニューヨーク近郊にはまだまだ “ Nature Sanctuary”、“Wildlife Management Area ”、“Wildlife Refuge”等と称する野生生物管理区や保護区が沢山ある。何れも車で1・2時間の距離であるが、そこは国や州または環境保護団体等によってよく管理されており、大都市に居る事をすっかり忘れてしまうぐらい緑も豊かで、動物や鳥が実に豊富である。春の北へ行くソングバード達の通過に始まって、冬の北から下りて来るカモやガン等の鳥達や、黒熊、アライグマ、オッポーサム、スカンク、リス、鹿などの動物達もも含めて種類が豊富で数も多い。
 しかも鳥見屋さんや写真屋さんのグループも少なく、鳥との距離が日本や欧州と比べて非常に近いので初心者でもじっくりと見れる。また、米国の鳥はアメリカムシクイやノドアカハチドリ等のように、赤や黄色や青など色が鮮やかで奇麗なのが多く、見ていて実に楽しくなる。
 豊かな自然に囲まれている世界の大都市ニューヨークは鳥見を楽しめるのは勿論、オペラ、クラシック音楽、ジャズ、ブロードウエーのミュージカル等世界一流のエンターテイメントを何時でもエンジョイ出来るし、世界的な美術・絵画も押し合いへし合いをする事もなく、ゆっくりと心ゆくまで鑑賞する事が出来る。
 質の高い鳥見と大人文化の両方が楽しめる、魅力溢れるニューヨークへ、みなさんもいらしてみませんか・・・・・
 
Snowy Owl
冬の海辺の人気者“シロフクロウ”
 
(注)撮影:藤波理一郎©
 
この写真は、藤波さんが撮影したシロフクロウですが、
「ユリカモメ」掲載の写真と同一ではありません。