この文章は、日本野鳥の会東京支部が発行する支部報「ユリカモメ」1999年4月号に藤波さんが寄稿されたものですが、藤波さんの許可を得て転載させていただくものです。
藤波理一郎(ニューヨーク在住)
世界的な都市「紐育」、そこには世界一流のビジネス街ショッピング街等があり、一日中人が蠢いている。
そんな大都会の真ん中に、摩天楼に囲まれた森で私のフィールドの一つ"セントラル・パーク"がある。広さは3.4平方Kmで、丁度中央区の約3分の1にあたり都会の公園としてはかなり大きい。実は、ここが何と全米14ベスト探鳥スポットの一つにあげられている。年間275種特に春は南米カリブの島で冬を過ごした"ソングバード"と言われる「渡り鳥達」が北へ向かう途中、集中してここを通るので有名な所であり、5月のピーク日には一日で100種以上見れることがある。
この公園に「渡り鳥達」が到着し始める4月ともなると毎年同じ顔ぶれの鳥仲間達が集まり出し、お互い一年ぶりの無事な再会を喜び合い賑やかな情報交換の場となる。老若男女、色々な人種、職業、国籍のバーダーが集まるのも国際都市ならではの豪華さである。
又、この時期は色々な地元愛鳥団体が毎日のように探鳥会を催している。中でも早朝7時からと夕方6時からのバーディングウオークは出勤前や退社後のビジネスマン・OLに人気がありいつも混んでいる。
ソングバードのなかでも特に人気があるのが"アメリカムシクイ"(Warbler)で、日本で言うウグイス、センダイムシクイの類であるが、米国のは黄色、黄金色、赤や黒、白黒縞模様等と色鮮やかで囀りもバラエティーに富んでおり、姿を見るのはもちろん、声を聞いているだけでも楽しくなる。米国では東西合わせて55種見られると言われているが、東側では41種見る事が出来、この内この公園で楽しめるのが36種類である。
種類が多いので声による識別が中々難しく、これを聞き分け腕を競い合うのがベテランバーダー達の楽しみの一つである。強い南西の風が吹いて気温が上がり、羽蟻が出て来ると"ビッグウェーブ"といわれる大ピークの日が訪れる。一本の樹に何種類もの"ムシクイ"が乱舞する光景は見事で春一番の興奮を覚える。
私の経験では、米国の鳥は全般的に人間との距離が日本やヨーロッパと比べて大変近いと思われるので春の「鳥見」も非常に楽しい。
ムシクイを称して"ワープラー''と言うが、この時期ベテランも初心者も一度は苦しむのが"ワーブラーネック"である。"ムシクイ"の中には樹の天辺の葉の先に着く虫を好んで食べるのが数種類おり、これを双眼鏡で数十分も夢中になって探しまくると、ついには首が痛くなり丁度寝違えたようになる。この状態が"ワープラーネックであり、酷い時は翌日探鳥が出来なくなる事もあるので馬鹿にすると大変である。
鳥見に疲れ小川の辺にあるベンチに座って、キツツキのドラミングの音やモリツグミの染みとおるようなフルートの音色に似た囀りを聞き、足元を駆けずり回るリスや樹の洞で縞模様の尻尾を出してのんびり昼寝をしているアライグマを見ていると、都会の喧騒を忘れ深山に居るような錯覚すら起こす。
セントラルパークは「渡り鳥達」が渡りに必要な豊富な食べ物と水と休息する場所を与えてくれる所であり、しかも「ニューヨーカー」がローラースケートをしたり自転車に乗ったり模型船を池に浮かべて走らせたり、新聞とランチを持って日向でゆっくり寛いだりする場でもある。
こんな素晴らしい公園が今から140年も前に作られたとはとても信じられない。