この文章は、日本では唯一と言えるバードウオッチングツアーなどネイチャリングツアー専門の旅行社、新和ツーリスト株式会社のお客様向けに1999年12月配布の「ネイチャリングクラブニュース」に藤波さんが寄稿されたものですが、藤波さんの許可を得て転載させていただくものです。

 
「アメリカの鳥達との楽しい付き合い」

ネーチャーコーディネーター
藤波理一郎(ニューヨーク在住)

 
 これまで16年間、アメリカの鳥を東西南北色々な場所で見続けており、ますますその魅力に取り付かれている。ライフバードの記録に特別興味はないが、北米大陸で約850種類見られると言われる内、これまでに600種以上は見ている事になる。
 ニューヨークの町中の公園、近郊の野生生物保護区等を主たるフィールドにして、野鳥観察撮影、現地野鳥愛好家達のバーディング・ウォークのリーダー等をしながら鳥見を楽しみ、年に2・3回程、全米各地にあるバーディング・スポットを歩きまわっている。  私のフィールドの一つ「セントラルパーク」は、町中にある世界的に有名な公園である。
 ここは4月末から5月中旬の頃、「ソングバード」と呼ばれる春の渡り鳥達が北へ行く途中に立ち寄る重要な中継地となる。「ソングバード」の代表は何と言ってもアメリカムシクイ( Warbler)であろう。黄色、黄金色、赤黒、白黒の縞模様等と色鮮やかでバラエティーに富んでいる。鳴き声にそれぞれ特徴があって声による識別がおもしろいし、その小さくて可愛い姿は見ていても大変楽しい。北米では55種類見られ、その内東側では41種類、驚く事にこの町中の公園で、この時期には36種類も見る事が出来る。米国の鳥は日本や欧州と比べて人間との距離が近いので特に初心者にはありがたい。また、この公園はもちろん郊外の野生生物保護区でも、大きな団体で鳥見をするグループもなければ、何処かの国のように、鳥の数より多いのではと思われるレンズの放列もないので、心ゆくまでゆっくりと鳥見や撮影が楽しめる。
因みに、セントラルパークは全米14ベスト・バーディングスポットの一つで、年間275種類以上見られるし、春の渡りの時期は、一日で100種近く見れる事もある。
 ニューヨークは、このように緑豊かな自然を手短に楽しめるだけでなく、世界の名画を美術館で押し合いへし合いの混雑もなくゆっくりと堪能出来、しかも夜には、比較的簡単に超一流のオペラ、ジャズ、ミュージカル等もエンジョイ出来る魅力溢れる都会である。質の高い自然と文化の両方を楽しめる、このような大人の大都会は他にあるだろうか・・・・
 
 アメリカでは63百万人以上の人々がリクリエーションとして鳥見を楽しんでいると聞く。彼らバーダーが使うお金は何と年間15億ドル(1,575億円)以上と言われており、各州もバーディング祭り、コンベンション、鳥見や写真教室等、色々な企画を打ち出して客寄せに一生懸命である。
 米国バーダーに人気のあるスポットは25ヶ所程あるが、特に人気があり私も好きで何回も出かけているスポットを3ヶ所程ご紹介したい。これらは粗削りの自然を保ちながらも管理の行き届いた多くの野生生物保護区があり、清潔で安全な安い宿が選べて、しかも飛行機、車での移動が非常にしやすい。もちろん季節毎に見られる鳥の種類も豊富であるし、比較的近距離で鳥が見れるので初心者にも楽しめる。
 
(1)11月頃から3月中旬にかけては温暖なウインターリゾート地の南フロリダの鳥見が良い。
 
 エバーグレード国立公園、コークスクリュー・サンクチュアリー、メキシコ湾に面したサニベルアイランド等かってピーターソンが好んだ所で、朝寝をしているワニの横を歩きながら、フロリダ固有種のヘビウ、トキコウ、ベニヘラサギ、ツルモドキ、ムラサキバン、タニシトビ等を見る。日によっては蚊に悩まされるが、運が良いとオオフラミンゴにも出会える。マングローブが繁る海岸で、ペリカン(シロ、褐色両種)がダイビングをしているのを、のんびりと南の暖かい陽射しに当たりながら眺めているのも、冬の贅沢の一つであろう。
 
(2)1月から2月にかけての南テキサスメキシコ国境のリオグランデ・バレーと4月中旬から5月の初めにかけてのテキサス・ガルフ・メキシコ湾沿いのドライブ
 
 リオグランデは米国バーダーの究極的パラダイスと呼ばれており、メキシコ種が多く見られるスポットの一つで、珍種も出る事が多く常にメキシコの図鑑も携帯する必要がある。
 サバルパーム・サンクチュアリー、サンタアナとラグナアタスコサ国立野生生物保護区等で、ヒメカイツブリ、カラカラ、ムジヒメシャクケイ、アカハシエメラルドハチドリ、ミドリヤマセミ、キバナシマセゲラ、ミドリサンジャク、キバラオオタイランチョウ等の固有種を見て歩く。ボブキャットやアルマジロ等の動物にも逢えるので楽しい。
 メキシコ湾沿いのハイアイランドでは主として各種アメリカムシクイ、ムクドリモドキやフウキンチョウ類の「ソングバード」の渡りを見る。彼らは500マイル以上もあるメキシコ湾を一気に渡って来るので、疲労と空腹のため餌採りと休息に夢中になり、驚く程近づいても逃げようとしない。又、一つの樹に色々な種類の鳥達が、鈴なりになっている光景に出会う事もあり、あまりの多さに識別するのに苦労する程で壮観である。
ガルフコースと称するメキシコ湾沿いを南に下りながら、シギ・アジサシ類の水鳥を見て行く。200羽から300羽近いソリハシセイタカシギの群れに時々出会える事があるが、しばし茫然とする程美しい。南種のサンドウィッチアジサシやオニアジサシ等も群れている。
 アランサス保護区に来ればやはりアメリカシロヅルを見たいところであるが、4月も10日を過ぎると彼らは北へ立ってしまうので、この時期、見れるかは微妙なところである。
 最後にテキサス中央部のエドワーズ・プラトーまで車を走らせ、この地区に集中し、外では見られないズグロモズモドキ、キホオアメリカムシクイ、セスジツバメ等を楽しむ。
 テキサスは大変大きくて、車を運転していてもうんざりするする事があるが、カントリーソングを一日中放送しているFM局にラジオを合わせ、道路脇の杭から杭を優雅に長い尾をヒラヒラさせて飛び回るエンビタイランチョウを見ながら、のんびり旅をしていると運転疲れも忘れてしまう。
 
(3)5月後半から6月初めにかけての南アリゾナの夏鳥を見る
 
 ツーソンを拠点としてメキシコ国境沿いのサンタカタリナ、チリカウナ、フアチュカ等のキャニオンを歩き回る。10種近いハチドリ、11種のフクロウ、そして5種のヨタカ等鳥影の多いのには驚く。なかでも、ベニタイランチョウは鮮やかな深紅色と黒で、バチカン宮殿を歩いているカーディナルのようで実に奇麗である。また、森の奥からコアーコアーと聞こえて来る大きな声のメキシコ種ウツクシキヌバネドリは、実に優雅で一度見たら忘れられない思い出の鳥となる。時々トレールを横切る愛敬者オオミチバシリは大変好奇心が強く、カメラを構えていると、のこのこと歩いて来てレンズの向こう側から覗き始める奴もいる。
 
 
 アメリカは危険な国と思っている人が多いかもしれないが、銃乱射事件等はごく一部の人々の一部の地域の出来事であって、今までバーダーが危険な目に遭ったり、事件に巻き込まれたりした話しはほとんど聞いたこともないし、私自身長い間鳥見旅をして来てこの手の嫌な目に遭遇した事は一度もないし、旅先で泥棒にすら遭った事がない。
 実に安全で、道路も良く整備されているので探鳥地へも行き易く、鳥も近くまで寄って来るので非常に見易い。アジアや欧州とは種類が異なるものが多く、しかも色彩が豊富で鮮やかであるので鳥見がいっそう楽しくなる。
 
 一度鳥見旅をするとその魅力に取り付かれ、何回もリピートをするヨーロッパ人が多いのも不思議ではない。みなさんも一度アメリカの鳥見を試してみてはどうでしょうか?
きっと虜になる事でしょう。
以上