「秋・冬のコスタリカ・バーディング・スポット」


カリブ海と太平洋に挟まれた、中央アメリカの狭くて小さな国コスタリカ。
九州より少し大きい程度の面積しかない国土でありながら、環境が多様で変化に富んで いる。 そしてよく整備されている保護区が多いので鳥が多種多様にわたっており、まさに野鳥の宝庫である。
道路も比較的よく整備されているので、サンホセから車で半日も走ればほとんどのスポットへ行くことが出来る。 海岸近くの熱帯乾燥林やマングローブの林から熱帯雨林、熱帯雨霧林、3000メートルを超える高山や火山まで、実に自然が豊富である。 840種以上の鳥が見られ、1000種以上の野生のランがあり、ホエザルやナマケモノ等の大型動物も近くで見ることが出来る。 数あるコスタリカの探鳥地の中から、私がよく行くスポット4ヶ所を選んでご紹介したい。
 
(1)ボスケ・デ・パス野生生物保護区
サンホセから車で約1時間半程北へ上がったポアス火山国立公園とフアン・カストロ・ブランコ国立公園の間で標高1400メートルから2400メートルの熱帯雲霧林である。 特に雨季は道や木、草、花など全て霧に包まれてしっとりと濡れている。
保護区内のロッジにはたくさんのフィーダーが掛けられており、ムラサキケンバネ、ハイバラエメラルド、アオノド、ドウボウシ、コスタリカ等のハチドリが一日中見られるし、果物が置いてある餌台にはクロシャクケイ、エダハシゴシキドリ、チャイロカケス、キバシミドリチュウハシ、コシアカフウキンチョウなどが来る。また、朝晩にはハナグマやアゴティーなどの動物も現れ、コーヒーを飲みながらゆっくりとそれらを見たり写真を撮ったりとのんびり楽しめる所である。また、保護区内はトレールがきちっと整備されており、早朝や夕方2―3時間歩くだけでケツアール(カザリキヌバネドリ)、オナガレンジャクモドキ、ズアカゴシキドリ、オレンジやクビワ等のキヌバネドリ、スミレフウキンチョウ類、ベニイタダキアメリカムシクイ等を比較的楽に見ることが出来る。
 
(2)ラ・セルバ自然保護区とその周辺
サンホセから北へ上がりポアス火山の東側の山岳ハイウエイをプエルト・ビエホに向かって走る。このハイウエイからカリブ海岸の平野にかけてが北米から下りて来るコンドルやタカの渡って行くコースである。 あちらこちらに現れる鷹柱は主にハネビロノスリとアレチノスリの混群で車からも容易に見られる。時々は数千羽のクビワアマツバメの大群による渡りも見られる。 ハイウエイ途中カリブランコ村の峠の茶屋“ミラドール・カタドラ”に寄り、朝食を食べながらフィーダーに集まるハチドリを見るのも大変に楽しい。ムラサキケンバネ、ドウボウシ、ヒノド、エンビモリ、ユミハシ等のハチドリや樹上を飛び回るアカビタイメキシコインコが見られる。このレストランから見るサンフェルナンドの滝と緑の樹海は実に美しい。
山麓をカリビアン側に下りるとチラマテ地区に入り、そこは低地熱帯雨林となる。セルバ・ベルデ・ロッジのプライベイトサンクチュアリーはサラピキ川の湿地と森林の中にあって低地の鳥種が豊富である。 ロッジに泊れば、毎朝5時過ぎ大きな声で鳴くシマバラマユサザイに起こされる、トレールを歩けばサンショクキムネ、ニショクキムネ等のオオハシ、ヒワコンゴウインコの群、シロクロ、キモモ、ツグミ等のマイコドリ、ワライ、コウモリ等のハヤブサ、ミズベアメリカムシクイ、サカツラハグロドリ、アカハシヅカシトドなどが見られ、足元には小さくて真っ赤なドクヤガエルや緑色のアカメアマガエル等が目に入る。
ロッジ近くのラ・セルバ自然保護区も必ず寄ってほしいスポット。光るキノコの研究で有名なバイオロジカル・リサーチセンターがあり、トレールもしっかりしていて一日中歩いても楽しめる。 秋には頭上を雲のように切れ目なく流れるヒメコンドル、ミシシッピートビ、ハネビロノスリの混群による壮大な渡りが見られ、キンズキンやルリカタ等のフウキンチョウ、オグロキヌバネドリ、ヒゴシツリスドリ、アカオキリハシ、リスカッコウ等が近い距離で見れるのでありがたい。ロッジから国道4号線を南に下って32号線に入り山岳ハイウエイをサンホセに向かう途中の“ブラウリオ・カリジョ国立公園もトレールを歩きながら探鳥をする価値は十分にある。
入り口の公園事務所付近でもカンムリシャクケイ、ヒメキヌバネドリ、ムナフチュウハシ、サザナミ、キンクロ、キゴシミドリ、チャガシラ等のフウキンチョウやズグロミツドリ等が目の高さで見られることがある。
 
(3) カララ生物保護区
太平洋側のニコヤ湾南端にあり、サンホセから国道3号線と34号線を走って2時間半 程度で行ける。ここは海岸縁の低地なので高温多湿でとにかく熱い。プンタレナスの海岸へ出ると、頭上をゆっくりと滑空して行く何十羽というアメリカグンカンドリやカッショクペリカンの群が見られ、浜辺に並ぶアーモンドの木には夕方30から50羽程のコンゴウインコがやって来てえさとりをする。 その美しい大きな姿と鮮やかな赤黄青の原色にはしばし圧倒されてしまう。
タルコレス川の河口は大きなクロッコダイルが泳いでおり、小魚が跳ねる水面をハゲノドトラフサギ、ヒロハシサギ、シラガゴイ、シロトキ、アメリカトキコウ等が飛び交う。 マングローブの林の浅瀬ではオオキアシやチュウシャク等のシギがえさとりをしている。
保護区内のトレールを歩けば、シマクマゲラやズアカエボシゲラ等の大型のキツツキ、そして人懐っこいカンムリサンジャックの群がいるし、高い木の天辺で独特なビヨーンという声で鳴くヒゲドリも見られる。アリモズ、ハチクイモドキ、カマドドリ等の低地の鳥もたくさんいるので歩いていても飽きない。手を叩くパチーンという音が聞こえてきたら目の高さから下の枝を探すとよい。オレンジシロエリマイコドリのオスが羽根を打ち合わせて音を出しながらディスプレー(求愛ダンス)をしているのが見られる。 ここでの夕方のトレール歩きも大変面白い。車のライトに照らされて飛び上がるオオヨタカ、盛んに鳴き合うアカスズメフクロウやメガネフクロウ、スピックスコノハズク、シロクロヒナフクロウ等も懐中電灯の光に照らし出されてよく見える。
 
(4) サンヘラルド保護区
サンホセの南”タラマンカ・マウンテン・コリドール“の山裾にあって、大きな樫の林に覆われ、サベグレ川の清流が流れる美しい保護区である。ケツアール(カザリキヌバネドリ)の一大生息地として有名で、ここではほとんど100%近い確立で見られる。また、ヒトリツグミやレンジャクモドキ、メガネクロウタドリのような高山に特有な美しい鳥や、この地方の固有種ホノオフウキンチョウ、キバネモズモドキやノドアカアメリカムシクイ等が見られる貴重なスポットでもある。
サンホセから”カスティージョ・ハイウエイ“を南下、有名なパンアメリカン・ハイウエイに入ってさらに南下、やがてサベグレ川渓谷が出て来るのでこの川沿いの急勾配な山間道を下る。この山道が素晴らしい探鳥スポットの一つで、特に”ブエルダ・デ・ガド“と呼ばれる道沿いは大変にプロダクティブであり、ケツアール、クロキモモシトド、ハシグロチャツグミ、ホオグロアメリカムシクイ、アカマユカラシモズ等が見られる。 この保護区内にある”サベグレ・ホテル“のまわりはまさに野鳥の宝庫である。まづは憧れのケツアール、乾季には朝早くロッジのすぐ裏の大きなカスティージョの木で鳴いてくれる。
渓谷を10分程上がった”ラゴ“では毎年6羽から10羽程のオス・メスのケツアールが必ず見られる。 しかも、朝日をあびた色鮮やかな止まっている姿や飛んでいる姿など全て真近で見られるのがよい。赤と緑の美しいボディーと長い飾り羽根を靡かせながら目の前を飛ぶ姿は実に優雅で思わず歓声があがる。
ロッジを囲む庭は花がいつも満開で、コスタリカノドジロフトオやハイオシロメジリ等のハチドリ、ハナサシミツドリ、ギンノドやキンズキン、サザナミ、スミレ等のフウキンチョウやメキシコシロガシラインコ等と鳥種が非常に豊富である。ロッジ裏山、鬱蒼とした雲霧林の”ロス・ロブレス・トレール“を渓流沿いに歩けばマダラウズラ、ギンノドオタテドリ、ズアカサザイ等の声が聞け、時にはその姿を垣間見ることが出来る。
標高3500メートル近い”セルドレラ・ムエルデ山“のパラモへ登れば、一面セレシオ、バレリアナ、ロベリア等の高山植物が咲いており、高山鳥のユキヒメドリやヤブミソサザイ、ヒノドハチドリ、オオアシシトド等が目の前のブッシュの枝に止まる姿を見ることが出来る。
このように魅力溢れる保護区や国立公園がたくさんあって、多様な動植物を育む自然に恵まれたコスタリカ。 環境保護のモデル地区として国際的評価も高く、エコーツーリズムのメッカとして人気を博しており、国の手厚い保護を受けているにもかかわらず、森林伐採による深刻な環境破壊がこの国に暗い影を落としている。牧場、野菜畑、果樹園などの増加、コーヒー豆の低コスト裁培による森林伐採などと世界気候の変動によって熱帯多雨林を包み込む分厚い霧とかすみの「カーテン」が徐々に消滅して来ていることが最近判ってきている。 これらによって今後生態系の破壊が起こりコスタリカの豊かな熱帯雨林の面積が減少していくのが非常に心配なところである。
 
( ニューヨーク在住 藤波 理一郎 )