「南米鳥見旅 - ベネズエラ」
( 11/23/2000 )


 雨期も終わる10月末に、ベネズエラ南東部を訪ね鳥見を楽しんだ。
首都カラカスで国内線に乗り換え約1時間のフライト、オリノコ川下流の町“プエルト・オルデス“で降り、車でルート10をさらに南下、ギアナ高地と称されテピュイというテーブルマウンテンが連なる地域を中心に南国の鳥をじっくりと見て歩いた。
まずは、ギアナ高地の手前オリノコ川の低地エル・ドラド近くエル・パルマール村に最初の宿をとり、翌早朝、イマタカ森林保護区を訪れオウギワシの営巣を見る。
保護区専門の案内人と専用四輪駆動ジープで、未舗装道路を揺られながら約1時間走ると道がなくなりいよいよトレール歩きとなる。
トレールといっても人が一列になって歩くのが精一杯の森の中の細い道である。
背丈程のブッシュは棘のある草木が多く、手のひらは傷だらけとなるし、時々葉の裏にへばり付いている大きな黒い毒クモや、足元の落ち葉の上をゴソゴソ歩いている真っ黒なサソリ等が目に入ってくる。 暗い森の中をメタリックな水色に輝くモルフォ蝶と毒が強くて鳥も口にする事が出来ない美しい赤黒のエリコネア蝶が交差しながらふわふわと舞っている光景は実に幻想的である。
2・3メートル先をメスグロホウカンチョウが歩いており、高い枝ではマエカケカザリドリが羽繕いをしている。 ムジカザリドリのけたたましく叫ぶような声が目の前でする、でも姿は全然見えない。 花も少ない単調な色合いの森の中の歩行であるが、頭から胸にかけての紫色が見事に美しいハグロキヌバネドリが時々近くの枝に現れ目を慰めてくれる。数種類のタイランチョウやヒタキモドキを見ながら約1時間も歩くと、やっとめざすオウギワシの営巣所へ着く。
高い大木の40メートル程の高さにある大きな巣、その上1メートルぐらいの裸の枝にメス親が止まってじっとこちらを見ている。 1メートルは優に超す、世界で最も大きく力強い鷲の一種である。 主食は猿やナマケモノ等の大型動物で、足の大きさは灰色熊の手と同じ、頭の扇を常に広げていて目は鋭く実に立派で威厳がある。
ズボンを這い上がってくるダニの事も忘れ、2時間近くも見とれてしまった。
3日間程イマタカ森林保護区周辺で探鳥をした後、ここから南へさらに数時間ドライブをして、世界で6番目の広さを誇るカナイマ国立公園の東側ラス・クラリタス村に宿をとる。翌早朝、宿に近いコティンガ・ロードのトレール歩きをし、ハゲオカザリドリを探す。途中沼地に寄り、オオミドリ、ミドリ等3種類のヤマセミ、子連れのナンベイレンカク、コンゴウクイナ、ナンベイタゲリ等数多くの水辺の鳥達を見る。
朝靄のかかった林の中から牛のような声でブーウォーと鳴き続けるハゲオカザリドリをじっくりと見る。 明るい赤茶のボディーに禿鷹のような毛のない灰色の裸の顔、異様な鳥である。 目の前の赤い花の蜜をホウバリングしながら吸っているトッパーズハチドリに見とれる。クロスした長い尾、トッパーズ色に輝くボディーは、ハチドリの中でも特に 美しく見ていて感激する。
翌日は標高140メートルから1430メートルまで高度を上げて行く“ラ・エスカレロ”といわれる道路沿いで鳥見をする。ここは急速に変化する植生が多種多様な鳥達の生息地となっており、ベネズエラでも一・二を競う鳥のホットスポットである。
エボシゲラ、テンニョゲラ、オニキバシリ、カマドドリ、アリサザイ、アリドリ、フウキンチョウ、スミレフウキンチョウ等南米独特の鳥達を堪能する。
中でも、小さい赤・黒の鮮やかなアカズマイコドリの枝を右往左往するディスプレーは面白い、又オス・メスで音叉を叩いているような声を出し鳴き合うアカヒゲスズドリや、全身明るく派手なオレンジ色でチャンキーな姿のイワドリ等は非常に印象に残る。
美しいメロディーを奏でるウタミソサザイや、フルートのような音色で鳴くフエフキミソサザイ等は聞いていて実に爽やかになる。 また、森の奥から聞こえて来るオオシギダチョウの長く物悲しい震えるような口笛サウンドは何時までも耳に残っている。
時々道路脇の枯木に止まっている大きく取って付けたような嘴を持った極彩色のオオハシ、チュウハシ、コチュウハシ等は言葉ではとても表せない程美しい。
道路を上がりきった一番高い標高1500メートル近くのグランサバナの大草原は広大で野生のランの花が咲き乱れている。 草原の先は熱帯雨林、そしてなだらかなスロープがブラジルの国境に続いている。
トキイロコンドルやキガシラコンドル等5種類のコンドルが、群れで頭上を低く旋回しており、チマンゴやアカノド等のカラカラ、コオモリハヤブサやシロ、カオグロ、オジロ等のノスリが枯木に止まっていてスコープでじっくりと見る事が出来る。
今回の旅では、7日間で252種類の鳥を見聞きする事が出来た。 ピークシーズンではなかったが大いに満足感を味わえる旅となった。
早朝、雲霧林を覆っている雲海を朝日がピンクに染め、その上を少群で飛んで行くコンゴウインコの美しい姿、また赤く染まった夕空を背景に、高いセクロピアの枝にぶら下ってのんびりと寝ているナマケモノのシルエット等、素晴らしい光景が目に焼き付いていて今でも時々鮮明に思い出される。
 
(ニューヨーク在住 藤波 理一郎 )