「スペイン・マドリッド郊外の春の渡り」
2002年2月


 2月中旬マドリッドから250キロ南南西のエストレマデューラ (Extremadura)平原地帯とモンフラグ自然公園山岳地帯で春の渡り鳥達を見て来た。
 
 まだ風が肌に冷たく感じる早春のマドリッド空港に降り、近くのホテルで時差調整をして、翌日レンタカーを借りE−90を西へ向かった。
2時間も走るとエストレマデューラの牧草地が延々とつらなる平原地帯が出てくる。
Albercheの町近くで高速道路を下り、さっそく45羽程のイシチドリの群を見る。
緑濃いオリーブの林が点在する「スパニッシュ・ステップ」と呼ばれる畑地と放牧地で餌とりをするカンムリヒバリや物凄い数のタゲリ等が目に入る。
時々アカアシイワシャコが歩いており、クロジョウビタキの数も大変多い。
電線に止まるオオモズやフェンスのワイヤーに止まって囀るハタホホジロ等を眺めていると、シュバシコウの嘴をカタカタ鳴らすのんびりとした音が耳に入って来る。
"Calera Y Chozas"の稲田へ車を進めると待望のノガン55羽が目に入ってくる。
尾羽を広げ白いヒゲを立ててディスプレーする雄の姿は見事である。
広大な稲田の中、ノガンと少し離れた所に200羽近いヒメノガンも居り興奮してスコープにかじりつく。 頭上をアカトビが優雅な姿でゆっくり旋回しているのが肉眼で楽しめる。夕方は、発電所の暖かい水の影響で南系の水鳥が多く見られる"Arrocampo Reservoir"へ行き、葦の高い所へ出てきてディスプレーをするセイケイや珍しいカンムリサギ等を楽しみ、"Trujillo"の町外れにある宿へ入る。
 
 3日目、日中はあれ程暖かいのに、早朝は大変冷えて霜が降りている。遅い夜明けと共に一番に囀り始めるのは毎朝ミソサザイ、シジュウカラとウタツグミである。
アーモンドやミモザの木の花が満開で、実に風情のある宿の裏庭を歩く。
さっそくマミジロキクイタダキやタンシキバシリが出てくる。 アンズに似たアーモンドの花の木を渡りながら飛ぶオナガの群を見ていると、東京の郊外の畠にいるような錯覚をおこす。 耳に心地よく響くヤツガシラの声をききながら、目の前を行き来するズアオアトリ、ズグロムシクイやモリヒバリ等を見ていると、カササギに追われながら飛び回る3羽のマダラカンムリカッコウが目に入る。
朝食後、中世そのままのような村"Trujillo"へ行き、古い闘牛場の屋根の上に止まったり飛び上がり滑空するヒメチョウゲンボウを見る。塔がそびえ立つ古い教会の屋根にはたくさんのシュバシコウの巣があり、2羽で嘴を鳴らしながら盛んにディスプレーをしている。
午後は"Madrigalejo"の稲田で越冬中のクロヅルを見に行く。 500羽以上の大群が頭上低く旋回したり、稲田に降りて餌とりをしたり、また、空高く何百羽単位のグループで編隊を組んで飛んで行く姿も見れたり、渡りの時期ならではの荘厳な光景である。
 
 4日目、"Belen Plain"へ行きノガン、ヒメノガン、クロエリコウテンシのディスプレーを見た後"Caceres Steppe"へ行く。 朝日を浴びて胸の赤茶と腹の白い部分がとても奇麗な40羽程のシロハラサケイと20羽程のクロエリサケイを楽しんで車をモンフラグ自然公園へ向ける。1時間程のドライブで公園に入りると景色が一変して、潅木が茂る乾いた岩肌が多くなる。 Tajo川にそそり立つ岩山に営巣するシロエリハゲワシ、クロハゲワシを対岸から目の前に見ていると、2羽のナベコウが旋回しながら岩肌の古巣へ降りてくる。
上空にはエジプトハゲワシ、ボネリークマタカ、イベリアカタジロワシ等が飛んでおり、まさにここはヨーロッパの中でも有名な鷹見スポットの一つである事がわかる。
素晴らしい鷹見の一日に満足しながら山道を上がり下り幾つかの村を通る、樹皮を剥がされ赤茶の肌を出した奇妙な格好をしたコルクの林、道端に咲くカマンメル・ティーのもとになる野生のカマンメル草の白い花、農家の古い屋根瓦の上で日向ぼっこしているコキンメフクロウ等を楽しむ。 "Navazuelas"の村近くでは早い渡りのオナガムシクイやクロガシラムシクイを見たり、松の枝に止まるチューヒワシを見ながらリュックに残っているコーヒーとクッキーを味わいしばしの休憩をした後、夕焼けに赤く染まる草原にノガンのシルエットを見ながら宿へ帰る。
 
 エストレマデューラ最後の晩、部屋のテラスで満天の星空を見ながらワインを飲み、ヨーロッパコノハズクの単調な鳴き声に耳を傾ける。
 
( ニューヨーク在住 藤波 理一郎 )