2003年初夏・南アリゾナ鳥見旅
( 2003年5月〜6月)


今年もまた5月末から6月にかけてツーソン市から東南にかけての南アリゾナで夏鳥を追いかけた。この時期は雨もなく真夏の酷暑もない比較的鳥見がし易い気候で、しかもたくさんのメキシコ種がすでに上がってきており、豊富な鳥種が見られる。
昨年は山火事が多く、ほとんどの国有林、国立公園、州立公園が閉鎖され鳥見する場所が限定された為苦労したが、今年は異常乾燥注意報は出ているものの心配した山火事は少なく、無事予定した全スポットを訪ねることが出来た。(6月中旬から山火事多発)
1970年代から南アリゾナ歩きを続け今回で8回目の訪問であるが、来る度に自然が少なくなっていくのがとても心配である。人口増加による住宅開発が進み、特にツーソン郊外で見られた人の形をした大きなサウアロサボテンの林や砂漠種の花が一面に咲いていた草原がどんどんなくなっていくようであり大変残念。環境の変化による降雨量の減少、山林火災の多発などでアリゾナ固有種が減ってきているのもやはり心配である。
米国の鳥屋達が一度は訪れたいと言うメキシコとの国境沿い“バーディング街道”を今回も走りながら、砂漠、草原、キャニオン等でアリゾナ固有種やメキシコ種を中心に見て周った。目玉種のミミジロサファイアハチドリ、アカガオアメリカムシクイとオリーブアメリカムシクイ、オオミチバシリやウツクシキヌバネドリなどはもちろん、フクロウを4種類も見ることが出来て、トータル170種類を超え大変に満足いく旅となった。
 
5月24日夕方ツーソン空港に着きその足で郊外のSanta Catalina Mountains / Catalina州立公園へ出かける。ここは町から近く、夕方から夜にかけてオオミチバシリ、ズアカカンムリウズラ、ベニタイランチョウ、スズメモドキ3種(フタスジ、ズアカ、アカハラ)などの砂漠種が楽に見られ、街灯の虫を求めるヨタカ2種(プアーウィル、コアメリカ)や、えさとりしながら鳴くサボテンフクロウ等も見れる。
 
2日目、アリゾナの鳥見は夜明け前直前(4時半頃)から10時ぐらいまでと夕方がベスト。この時期でも日中の温度は35度以上に上がるので昼間は鳥達の活動も鈍く鳥影がうすくなる。とにかく朝早い時間が勝負。早朝Santa Catalina MountaisのCatalina Highwayをサウアロサボテン林を見ながら走る。Mt. Lemmon Highwayの山道に入り、Molina Basinや Bear Canyonでイワサザイ、アメリカムシクイ3種(ノドグロハイ、グレース、ウイルソン)を見て、更に上がり標高1,700メートル近いRose Canyon Lakeキャンプ場に入る。ここは松林の緑が多く鳥種も一変して亜高山鳥となる。砂漠からいっきに上がる環境の変化は実に魅力的である。アカガオアメリカムシクイが大変に多く目の高さまで下りて来るので見易い。ニシフウキンチョウ、ミドリトウヒチョウ、チャカタルリツグミ、オビオノスリなどを見て山を下りる。
国道I-10からI-19に入り南下、Buenos Aires国立野生生物保護区へ行き探鳥。平地と草原のトレールを歩きチャイロツキヒメハエトリ、スズメバト、ベニタイランチョウ、ハイイロノスリなどを見ながら小さい池を覗く。アカハシリュウキュウガモ、アカシマアジが泳いでおり、ナツフウキンチョウ、ニシフウキンチョウなどが水浴びをしている。まわりの葦ではハゴロモガラス、クロキンヒワ、カオグロアメリカムシクイ、オオアメリカムシクイ、ハシボソタイランチヨウなどが見られた。ツーソンでのホテルはI-19沿いのGreen Valleyにとるのが便利、質も高く比較的料金が安い。
夕方から夜にかけてMadera Canyon Santa Rita Lodgeへ出かける。毎年ここの電柱で子育てをするサボテンフクロウの撮影が目的。7時半昨年と同じ電柱の穴から雛が顔を出し親を求めて鳴く、7時45分親が餌を運び始める。雛に餌を与える姿や枝に止まって休む姿などをたっぷり撮影。日本だとさしずめレンズの放列であろうが、今夜の見物者は我々5人だけの贅沢なショウである。
 
3日目、4時半Madera CanyonのMadera Picnic Areaトレール歩きから始める。ドングリキツツキの数が大変多い、木という木、電柱にまで穴をあけどんぐりを入れている。ニシモリタイランチョウ、ハイノドヒタキモドキ、シロガオエボシガラ、シロハラオオヒタキモドキ、レンガフウキンチョウなどを見る。Madera Canyon Rd.をさらに上がり、Santa Rita MountainsのVault Mineトレールを歩く。岩がゴロゴロしている急斜面や沢歩きの1.2キロと少々きつい登りであるが、目的のウツクシキヌバネドリの♂♀がすぐに現れる。
赤と緑の奇麗なメキシコ種、木の洞をチェックしたり、交尾をしたり、巣作り前段階のようである。ワニ皮そっくりのAlligator Juniperの根にある巣に餌を運ぶアカガオアメリカムシクイ、この2種類を同時にしかも近距離で撮影出来るのはまさにラッキーである。
11時半満足した鳥見を終えキャニオンを離れる。I-19を南下、国境の町Nogalesを通過Kino Springで鳥見をする。メグロハエトリ、ルリイカル、レンジャクモドキ、クロコンドル、ムナジロアマツバメなどを見た後、次の宿泊地Patagoniaへ向かい途中Pattonユs Houseに寄る。ここはフィーダーを並べ、バーダーに庭を開放している世界的に有名な個人の家で、珍しいスミレハチドリ、メグロトウヒチョウ、インカバト、ハシブトタイランチョウなどを見る。
 
4日目、Sonoitaの牧草地を走りながらマキバドリ2種(ヒガシ、ニシ)クサチヒメドリ、ヒバリヒメドリ、アメリカカケスなどを見てScotia Canyonの山道に入る。道際で餌取りに夢中なオオミチバシリの5羽の群、一羽はトカゲを咥えてまさに図鑑の絵のとおりの姿、岩に上がってポーズをとってくれる大サービスに一同感激。
Rt. 83を東に走りPatagonia Lake州立公園に寄る。メリケンアジサシ、ササゴイ、ナンベイヒメウ、オビハシカイツブリ、カオジロブロンズトキ、カワアイサなどを見て次の宿泊地Sierra Vistaへ向う。郊外Miller Canyonの中腹にある果樹園Beattyユs Ranchが次の拠点、夕方Ranch内のフィーダーに集まる ハチドリ5種(アンナ、フトオ、アオノド、ノドグロ、ミミジロサファイア)などを楽しむ。
 
5日目、午前4時フクロウやヨタカの声で起きる気持ちの良い目覚め、やがてうっすらと明るくなるとチャバライカルやニシモリタイランチョウなどの大合唱となる。ロッジ裏のHuachuca Mountains / Miller Canyonトレールを登りながらの早朝探鳥、モミの木や松が多い標高2,000メートル以上なので涼しい。アメリカムシクイ4種(グレース、アカガオ、キガシラ、カタジロ)、アメリカキバシリの小群、ミソサザイ2種(イエ、ムナジロ)、メキシコ種のホノオフウキンチョウもついに見る。ニシアメリカフクロウを探しながら沢を歩く。午後はタフな山道のCarr Canyonを車で上がり珍しいメキシコ種ミヤマヒタキモドキ、ウスチャメジロハエトリ、ハイイロメジロハエトリなどを撮影。よく響くコマツグミの鳴き声を聞きながら山を下りる。夜はヨタカの声を聞きながらバーベキューパーティー、ワインとアリゾナステーキを楽しんだ後、鳴き始めたヒゲコノハズクをテープで呼ぶ。すぐ目の前に現れスポットライトを当てて撮影。色々なポーズをしてくれるフレンドリーなフクロウで一同大喜び。
 
6日目、朝4時ヒゲコノハズクの声で目が覚める、驚く事にロッジのポーチの欄干で盛んに鳴いている。窓からほんの1.5メートルの距離、肉眼で十分観察出来る。Sierra Vistaの東郊外Hereford roadとSan Pedro で早朝から午前にかけての探鳥。ウロコウズラ、ズアカカンムリウズラ、そして非常によく似ているツグミモドキ2種(マルハシ、スナイロ)を比較しながら見る。午後は次の拠点Portalへ向けてラジオから流れるカントリーソングを聞きながらの長時間ドライブ。アメリカヨタカが夕焼け空を飛び始める7時頃ニューメキシコ州との州境、鳥屋にとって有名な小さい村Portalに着く。
 
7日目、ロッジすぐ横のBig Thicketで早朝探鳥、ノドグロヒメドリ、サボテンミソサザイ、ムジトウヒチョウ等の砂漠種を思う存分撮影。 午後は連日のアリゾナの乾燥した暑さに少々疲れぎみなので、昼寝をとる人、花を撮影する人、ハチドリを見る人など皆それぞれ自由な時間を持ってゆっくりと過す。 夕食後Cave Creek / South Fork Picnic Areaへ行きアメリカコノハズクを探す。7時頃テープを回し始めるとさっそく反応する声が聞こえてくる。辺りが暗くなったとたん突然目の前を飛び近くの低い枝に止まる。スポットライトに照らされた可愛い姿を堪能、なかなか探すのが難しいフクロウであるが、撮影も大成功となって皆大喜びである。
 
8日目、朝日に赤く染まるChiricahua Mountainの岩肌、激しく鳴くモリタイランチョウ、ヒメコンドルが10羽程頭上を飛んで行く朝の美しい光景を見ながら険しいMountain Roadを上がり標高1,800メートルのRustler Parkに入り探鳥。アリゾナの山岳地帯でしか見られないオリーブアメリカムシクイやメキシココガラ、マミジロコガラ、メキシコユキヒメドリ、ヒメレンジャク、ヒメゴジュウカラなどを見てさらに奥のBarfoot Parkへ行きステラーカケス、チャカタルリツグミ、ムネアカゴジュウカラなどを楽しみながら終日涼しい山中で過す。
 
9日目、早朝Cave Creek / South Forkトレールを歩きウツクシキヌバネドリをもう一度見て、Cave Creekに下りアメリカワシミミズクを探す。
水の流れがない河原を歩くと低いブッシュからいきなり飛び出して来て目の前の低いスズカケノキに止まってくれる。低い朝の日に当って羽根の色がよく出ており、みんな無我夢中で写真撮影に興じる。午後はI-10を西へ走りWillcox PlayaのWillcox Lakeで探鳥。水鳥が大変豊富で北へ渡る途中のシギもまだ残っているのに驚く。ハジロカイツブリ、アメリカヒドリ、アメリカホシハジロ、子連れのアカオタテガモ、営巣中のクロエリセイタカシギや首が赤茶のアメリカソリハシセイタカシギ、アメリカダイシャクシギの小群、アメリカヒレアシシギ、ボナパルトカモメ、クロワカモメ、コスズガモなどを楽しんでツーソンへ向う。
 
全走行距離約1,500キロ、砂漠、草原、渓谷、湖沼、標高2,000メートルを超す山岳地帯など自然環境が色々と変り変化に富んだスポットを隈なくまわったので170種以上見ることが出来、しかもほとんどが良い条件下で見られ、写真撮影もある程度思うように出来たので大変満足いく旅となった。
 
(ニューヨーク在住 藤波 理一郎 )